朝の通勤電車が主要な駅に着いて、折り返す。
すると、今まで満員だった車内はガランとして、ポツリポツリと人が座る風景に変わる。
ふと、床にボタンが一つ落ちているのを見つけた。
満員だった時に、誰かの衣服から落ちたのだろう。
落ちた事に気づかず、いや、気づいたとしても拾えないほど人が多かった事の残像のように。

私が降りるまで、そのボタンはそのまま
通り過ぎる足に踏まれることもなく、ただじっとそこにあった。
落とした人は、見つからないと思って、新しいボタンを買うのだろうか。
その人にとって必要なものが、今目の前にある。
その後、車掌さんに拾われるのを待つボタン。
その小さなボタンが、もう持ち主の手に戻ることのない淋しさに、目が離せない。
誰かにとっては必要で、誰かにとっては必要ではない。
その相対性を起こさせたボタンを拾うか拾うまいか。
そんな事を悩んだ朝でした。